外食チェーンのサバイバル戦略

9月にGo To Travel キャンペーンが始まり,4連休は箱根など首都圏近郊の観光地は大いに賑わったようです。10月からは東京発着もキャンペーン対象となるので,コロナ禍とはいえ「行楽の秋」はそれなりに盛り上がるものと思われます。9月にマクロミルが全国の男女1000名を対象に行ったWEB調査によれば,レジャーシーズンである8月に旅行に行った人は1割にとどまったようですが(日経MJ:2020/09/25:1P),これからGo To Eat も始まることから,外食を含めた72兆円の余暇市場の回復を期待したいところです。

コロワイド vs 大戸屋

9月前半はコロワイドのTOBのニュースが紙面を賑わせました。コロワイドによる大戸屋のTOB攻防は,コロワイドが買付期限を8月25日から9月8日まで延長し,また成立に必要な応募数も緩和したことにより,外食業界としては初めて敵対的TOBが成立しました。(日経朝刊:2020/09/09:1P,他)。「大が小を呑む」という感が否めない敵対的TOBですが,コロワイドは売上高2353億円に対し最終赤字64億円,一方大戸屋は売上高245億円に対し最終赤字11億円と(いずれも2020年3月期),どちらも背水の陣,特に居酒屋業態が主体のコロワイドはコロナで更に業績が悪化していると思われ,なりふり構っていられない,というのが実情でしょう。

ところで,このTOBの論点の一つに,店内調理かセントラルキッチンか,というものがありました。論調からすると,効率化のためにはセントラルキッチン,味や品質のためには店内調理,という二者選択のような言われ方をしていますが,実際にはそんなに単純なものではありません。セントラルキッチンを持たず食品製造業大手へのOEM製造で効率化を図るという方法もあり,実際にその方法に徹してセントラルキッチンを持たない大手外食チェーンもあります。店内調理にこだわり過ぎて原価率を抑えられず値上げを余儀なくされ,結果として客離れを起こし行政を悪化させた大戸屋は柔軟に発想する必要があると,筆者は考えます。また,コロナによりセントラルキッチンの稼働率が下がっていることから何とか生産性を上げたいコロワイドとしても,シズル感を演出できる店内調理の良さを評価する部分もあってもよいと思います。

それからコロワイドに限らずセントラルキッチンを擁する外食企業においては,これからの中食の伸長を踏まえてセントラルキッチンをECに対応した食品工場へとレベルアップすることも視野に入れておいた方がよいでしょう。直営チェーンへの食材供給と,B to B取引となるフランチャイズチェーンへの食材供給とでは,保健所の許認可も変わってきます。さらに,B to Cで一般消費者向けの食品を製造するということになると,衛生管理や製造設備のレベルをさらに一段レベルアップさせる必要も出てきます。外食チェーン企業は,そういった販売チャネルの複層化と,OEMも含めた製造工程の複層化を総合的に俯瞰して,中期経営計画を立てる必要があると言えるでしょう。

外食業界サバイバル

外食チェーンの閉店ラッシュも続いており,グルメ杵屋はFC店を含むチェーン全443店のうち業績不振の直営80店を順次閉店すると発表(日経朝刊:2020/09/26:13P),2020年6月期決算で過去最大の93億円の赤字となった九州基盤のジョイフルは不採算直営200店舗を順次閉鎖すると発表(日経地方:2020/09/26:九州)など,きびしい業況は変わっていません。

そのような中,サイゼリアは都心に従来店舗の6割程度の面積の小規模店舗を展開しテイクアウト需要に対応,スシローもテイクアウト中心の小型店舗を兵庫県芦屋に開業しました(日経MJ:2020/09/21:13P)。また特に居酒屋業態の低迷に危機感を募らせる大手外食チェーンは,ドメイン変更あるいは新業態開発の動きが活発です。ワタミは主力の居酒屋業態からの脱却を図り,持ち帰り専門「からあげの天才」の展開に拍車をかけ,さらに焼肉の新業態「かみむら牧場」を登場させました。三光マーケティングフーズは居酒屋店舗の営業空き時間をテレワークスペースとして貸し出すサービスを始め,現金=キャッシュの確保に躍起の懐事情を垣間見せています(日経朝刊:2020/09/11:13P)。

Nextストーリーミレニアル 新常態の主役

厳しい記事が多い中,京都市のステーキ丼専門店「佰食屋」の記事に明るい一筋の光を見ました(日経朝刊:2020/09/18:16P)。この店舗はTVでも紹介されていたので,ご覧になった方も多いのではないでしょうか。佰食屋は1日100食限定の飲食店で毎日完売,このポリシーは2012年から変わっていないそうです。4店舗あった店舗をコロナで2店舗に縮小したダウンサイジングの決断も見事,適正利潤を追求して無理なオペレーションで店舗に負担をかけない理念も素晴らしいと思います。「いかに儲けるか」ではなく「いかに生きるか」に焦点を当てたエシカルな経営姿勢に,これからの外食の生きる途を見いだせればと,個人的には思っています。

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