2018年度飲食業調査より~注目業態,海外進出,M&A

日経新聞発表の2018年度飲食業調査によると,回答のあった主要外食チェーン317社の売上高は堅調に増加したものの利益率はやや減少ということで,これらの結果は日本の大手外食チェーン企業の実態を捉えていると思われます。(日経MJ:2019/5/22:P1-5)。概括すると,値上げやテイクアウト需要の取り込みにより売上高が増加した反面,値上げ実施の要因である人件費や原材料費のコスト増を吸収できず利益率が低下したものと読み取れます。それでは今回,日経MJの飲食業調査で取り上げられたいくつかトピックについて,少し掘り下げて見ていきましょう。

●肉ブームは健在か(日経MJ:2019/5/22:P1)
ゴリップ(京都市)の「京都勝牛」は,ランチ単価が1000円を超える「プチ豪華」需要を狙った業態です。レアで赤みの残る牛カツを数種の調味料で食べるスタイルは,牛カツ業態のスタンダードになりつつあります。もともとゴリップはサムギョプサルなどの肉業態から始まり,競争力のある「京都勝牛」の開発を機にフランチャイズ加盟開発代行会社であるパワフルブレーンズ(東京・渋谷)と提携し,大きく店舗数を伸ばしました。フランチャイズ加盟開発代行会社とのコラボレーションが奏功した,良い例だと思います。

また同面に掲載されてたアントワークス(東京・中野)の「伝説のすた丼屋」は,並盛630円で総重量は600gと普通の牛丼店とは全く別物の業態です。牛丼大手3社がシニアや女性も取り込んでターゲット層を幅広くとっているのに対して,「伝説のすた丼屋」は若くて腹が減った男性=YHG(Young Hungry Guy)をターゲットとしているようです。このYHGというターゲットセグメントは,もともとハンバーガーチェーンの「カールスジュニア」がアメリカ本国でマクドナルド等との差別化として設定したものです。現在,カールスジュニアはミツウロコ(東京・中央)の関連会社がマスターライセンス権を得て日本で展開していますが,日本でのカールスジュニアは高級ハンバーガー業態という位置づけです。一定量の需要が見込める日本におけるYHG業態は,「伝説のすた丼屋」や同じ肉業態の「いきなりステーキ」,あるいはラーメンでいうところの「二郎系」なのかもしれません。

●アジアで加速する海外進出(日経MJ:2019/5/22:P5)
筆者はフランチャイズ・コンサルタントとして海外展開支援も行っておりますが,最近は特にアジア地域での展開に関する相談を受ける機会が多くなりました。今回の日経調査によると,海外出店を積極化あるいは予定している企業35社の出店予定地域は,ベトナムが51.4%でトップ,アメリカと台湾が48.6%と同率で2位,以下インドネシア,中国,タイと続いています。ベトナムが人気なのは経済発展への期待ももちろんですが,数年前までJETRO(日本貿易振興機構)で飲食サービス部門の海外進出支援の牽引役であった人物が,現在ハノイでベトナム地区の責任者として赴任していることも関係なくはないようです。

海外進出の手法を調べるのであれば,川端基夫『日本企業の国際フランチャイジング』(新評論・2010年)をおすすめします。2010年当時からすればトリドールの「丸亀製麺」が海外展開を加速するなど,業界地図は様変わりしていますが,契約形態としての単店フランチャイズ・マルチユニットフラチャイズ・マスターライセンスについての解説は大いに参考になります。また出資形態としての独資・合弁・完全子会社化などのメリットデメリットについても,同書で理解を深めるとよいでしょう。

●M&Aによるチェーン成長戦略(日経MJ:2019/5/29:P13)
今やM&Aは特定の大企業や全国チェーンに限定されたものではなく,成長戦略の中で事業継続や承継,多角化やリストラクチャリングを具現化する手段として,中小中堅企業でも活発に取り入れられてきています。本調査では,ここ2年以内にM&Aを実施した企業は11.5%,近々M&Aを実施する予定の企業は13.2%と,ともに1割を超えています。M&Aにより時間が節約でき,一気に業容拡大できる,手薄だった地域へ出店することができるといった直接的な効果に加えて,中期的には経営資源の共有による生産性向上やシナジーが期待できるといったメリットも考えられます。

しかしながら準備不足でM&Aに臨むと,M&A後のPMI(Post Merger Integration)に手間取りコストがかさみ,シナジーも発揮できず負のスパイラルに陥るリスクがあることも,十分に認識しておく必要があります。M&Aによる拡大路線を続けている外食チェーン大手がフラチャイズで伸長した焼肉チェーンを買収したものの,社風や価値観の違いでPMIが進まず,通奏低音のように不協和音が流れているというような噂も耳にします。また,上場によるキャピタルゲインで無節操にM&Aを進めた個別フィットネス企業の経営不振も,ここのところ新聞紙上を賑わせています。

M&Aでは理念やビジョン,風土や価値観といったもの親和性も大切になります。マッキンゼーの提唱した「組織の7S」を点検して,M&Aに臨むべきでしょう。以下,直近の外食チェーンのM&A案件を挙げておきましたので参考にしてください。

〔ここ2年の主な外食チェーンM&A案件〕
2019-05-31 海帆(3133),立喰い焼肉「治郎丸」事業を譲受け
2019-03-28 梅の花(7604),海産物居酒屋「さくら水産」運営のテラケンを買収
2019-02-22 シダックス(4837)子会社,ミツウロコプロビジョンズから事業の一部を譲受け
2019-01-23 ミツウロコGHD(8131),グループ会社2社を合併
2018-12-11 ほっかほっか亭のハークスレイがメイテンスの90%株式を取得
2018-11-15 ギフトが横浜家系ラーメン「せい家」のトップアンドフレーバーを子会社化
2018-10-01 ホットランドがアイテムを4億7700万円で買収
2018-08-01 小田急レストランシステムがドリームサークルを子会社化
2018-07-25 きちりが動画プラットフォームのピーシーフェーズと資本業務提携
2018-06-06 渋谷肉横丁がネクストシースリーの飲食事業の一部を譲受
2018-02-02 キーコーヒー,銀座ルノアールに追加出資
2018-02-01 ヤマエ久野,レストラン専門卸のTATSUMIの51.1%株式を取得
2018-01-09 J-STAR,街コンと居酒屋の融合業態「相席屋」運営会社の株式を取得
2018-01-04 神戸物産,孫会社をNOVAに5億円で譲渡
2017-11-29 ジェイグループHD,焼き鳥のかわ屋インターナショナルを3億6000万円で取得
2017-11-13 トリドールHD,背脂系濃厚とんこつラーメン「ずんどう屋」の運営会社をグループ化
2017-08-22 ピックルスコーポレーションが子会社を個人に譲渡
2017-08-16 サーベラス・グループ,西武ホールディングスの全株式を売却
2017-08-09 「すためしどんどん」運営のガーデンが肉寿司を子会社化
2017-07-28 「かつや」運営のアークランドサービスがバックパッカーズの66%株式を取得
2017-06-29 ユニー・ファミマHD,カネ美食品を子会社化 中食の品質向上目指す
2017-06-27 「はなの舞」のチムニー,マルシェと資本業務提携
2017-06-22 ヴィレヴァン,フード事業を分割 経営資源を本業に集中
2017-06-15 飲食店経営のバルニバービが菊水を連結子会社化

出所:M&Aキャピタルパートナーズ https://www.ma-cp.com/gyou_c/90.html

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