生き残りをかけたテイクアウトとデリバリー戦略

コロナ禍による飲食業界への影響は深刻なものがあり,4月の新聞紙上はネガティブな話題があふれていました。今月は,そのようなネガティブなものをピックアップしても滅入るだけなので,事業者の創意工夫や周囲の支援など少しでも明るい話題を取り上げたいと思います。特に,テイクアウトとデリバリーという「機動力」を活かす取り組みについて見ていきます。

ところで筆者は常々,この時期に大切なのは①キャッシュフロー,②イノベーション,③ダウンサイジングだと申し上げております。①キャッシュフローとは助成金や公的融資等を活用して事業を継続するための資金を調達すること,③ダウンサイジングとは調達したキャッシュで少しでも長く生き延びるためにリストラクチャリングを断行すること,です。そして外食産業にとっての②イノベーションとは,これまでのビジネスモデルを脱却して新たなモデルを確立すること,つまり現実的には「テイクアウト,デリバリー,ケータリング,EC」といった機動力をいかに取り込んで新しい業態を確立するか,ということなのです。

手前味噌で恐縮ですが,ここ3週にわたりテイクアウトに関するYouTube動画を配信しましたので,お時間がございましたらご視聴いただければ幸甚です。

外食チェーンおよび個別飲食店の取り組み

外食チェーンのテイクアウト需要対策としては,ラーメン「幸楽苑」のチャーハン弁当など5種類のお持ち帰り弁当のメニュー化(日経地方:2020/4/28:東北),焼肉「安楽亭」の8種類の店頭弁当販売開始(日経地方:2020/4/17:首都圏),「名代富士そば」の出前館シェアリングサービス利用による都内22店舗の出前開始(日経MJ:2020/4/29:9P),などの記事が見られました。

大手ファミレスチェーンの動きとしては,「デニーズ」を運営するセブン&アイ・フードシステムズは運営受託する都内の品川のビジネスホテルの厨房を宅配専門のキッチン(ゴーストキッチン)に変え,都内のデニーズ9店舗の宅配業務を移管してテイクアウトとデリバリーの集中拠点とすることで急増するデリバリー需要に対応する(日経MJ:2020/4/29:9P),としています。

個別の飲食店の動きとしては,飲食店支援のE―MATE(東京・新宿)がメニュー開発したテイクアウト専用商品の「クリスピーチキンアンドトマト」を,テイクアウトに向くメニューを持たない飲食店にライセンスして販売してもらう,というようなビジネスモデルが見られました(日経MJ:2020/4/22:1P)。その他,シェフが料理レシピを動画配信する,居酒屋が同一メニューを複数宅に配達してオンライン飲み会を盛り上げる(日経MJ:2020/4/27:11P),2か月の休業期間中に限定YouTuberとして動画配信しファンを獲得してコロナ後の集客に結び付ける(日経地方:2020/4/28:首都圏)など,個店レベルでコロナ禍を乗り切るための取り組みが紹介されていました。

自治体の外食関連事業者への各種支援策

東京都は,都内でテイクアウトやデリバリーを始める中小飲食事業者に対して,最大100万円を助成する(助成率4/5)施策を発表しました。本申請は4/23より東京都中小企業振興公社にて受付が開始され,東京都としては感染防止協力金(1事業所あたり50万円,複数事業所は最大100万円)に続く飲食事業者が活用できる支援策となっています(日経朝刊:2020/4/23:P33)。

また,東京都文京区と区商店街連合会は,ランチ時間帯に限定した飲食店の宅配代行業務を行います。4月下旬を目途に宅配員の確保し参加飲食店を募る予定で,自治体による宅配代行は全国でも初の試みとなっています(日経地方:2020/4/10:首都圏)。

その他,自治体主導のテイクアウト飲食店応援サイトの開設やSNSの活用などが,全国に広がっています。新聞地方版には各自治体の取り組みが数多く紹介されいましたので,その内のひとつを挙げておきます。神戸市は,飲食店が出前館の宅配サービスを導入するにあたり,7月末まで同サービスの導入手数料7万円を負担,また通常は売上10%の同サービス手数料の半分の5%を助成する支援策を発表しました(日経地方:2020/4/25:関西)。

市民団体による支援や異業種の宅配事業参入

市民団体の飲食店支援の情報も多くみられました。筆者の郷里と母校(松山市の愛光高校)の記事もありましたので,紹介しておきます。松山市の有志が4月上旬に,テイクアウトに対応した飲食店を応援するために「松山テイクアウト部」というfacebook groupを立ち上げたところ地元市民が2000人参加しています。その他,愛光高校(松山市)では教員の指導のもと,店舗所在地をまとめた地図作りに生徒が取り組むというような活動も見られます(日経MJ:2020/4/22:11P)。

宅配を代行するウーバーイーツや出前館は利用者や加盟者が大きく伸びており,休業状態の飲食店スタ不を臨時で採用するなどして配達員の確保を急いでいます(日経朝刊:2020/4/29:12P)。そのような中,国土交通省の特例措置(5/13まで)に基づき,タクシー事業者(旅客事業者)が飲食店の料理をデリバリーするサービスに取り組んでいます。これも各地域での事例が紹介されていましたので,そのひとつを挙げておきます。両備グループ(岡山市)傘下のタクシー3社は,4/28から店内営業を自粛している飲食店からの宅配受託サービスを始めました。配送は1回につき1カ所で,料金は店舗から配送先までの距離が3キロまで1000円,3~5キロが1500円,5~7キロが2000円,7~10キロが3000円となっています(日経地方:2020/4/28:中国)。

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