外食チェーンによる地方創生

消費税増税の話題に食傷ぎみ

外食だけでなく小売も含めたB to C業界の反応は概ね,「軽減税率,迷惑千万」といったところです。なぜ軽減税率などを導入したのかという「そもそも論」になると,政治的ニュアンスを避けられないのでここでは多くを語るのはやめておきましょう。とにかく,POSレジ変更,価格表示の変更,顧客への説明義務,会計上の仕訳の手間,加えてキャッシュレス還元の煩雑さと意味不明さなど,何をとっても事業者にとっていいことなどありません。

大手外食チェーンの対応は,イートイン・テイクアウト別価格型同価格型に別れました。別価格型の主なチェーンは,吉野家,モスバーガー,スターバックス,ガスト,ロイヤルホストなど,同価格型の主なチェーンは,すき家,天や,松屋,KFC,マクドナルト,サイゼリアなどです(日経朝刊:2019/9/11:3P,他)。同価格型チェーンは,消費者の混乱を避けるためと小銭釣銭のハンドリングの手間を省く意味があるとしていますが,一部のメニューについて実質値下げとなるものもあり利益の圧迫は避けられないでしょう。

10月以降数カ月すれば世の中も落ち着こうというものの,いずれ数年経てば軽減税率も廃止されすべて消費税10%になるのだろうことを思えば,大山鳴動…のような気がしてなりません。

 

前向きな外食チェーンの地方創生

軽減税率のごたごたは横に置いて,前向きな地方発のニュースをピックアップしてみました。お好み焼きの千房HDが大阪の老舗おでん屋「たこ吉」の事業を承継し,おでんを柱とした新事業展開に乗り出します(日経電子版:2019/8/23)。千房HDの中井政嗣会長が行きつけのおでん屋店主から今後の相談を持ちかけられ,即断即決で事業承継の運びとなったそうです。おでんは,昆布だしの関西風,カツオと醤油の関東風,魚粉の入った静岡風,練り物が特徴の小田原風,魚介ネタがふんだんな金沢風など,地方の食生活が色濃く出るソウルフードです。千房HDがこれからどんな「おでん業態」を開発していくのか楽しみです。

「ナゴヤの名企業/新戦国時代」の第3部外食特集が日経地方版で連載されました(日経地方:2019/9/10-13:中部経済)。今回登場した企業は,世界の山ちゃん,サガミ,コメダ珈琲店,物語コーポレーション,CoCo壱番屋です。名古屋といえば,エビフライ,みそカツ,みそ煮込みうどん,きしめん,あんかけスパ,ひつまぶし,と独特の食文化を有しています。手羽先を有名にした山ちゃんや,名古屋色を身近にしたサガミの貢献度は高いといえます。また,名古屋風総合型喫茶店ブームの火付け役であるコメダHDや,ロードサイド型業態に強い物語コーポも存在感を示しています。近年海外展開でも注目されているCoCo壱番屋もまだまだ成長基調にあります。スガキコシステム不調のニュースなどもありますが(日経地方:2019/9/20:中部経済),名古屋発チェーンには今後も注目したいところです。

そして地方創生関連としては,奈良交通の情報です。奈良交通は現在,ミスタードーナツのFC18店舗,日本料理店直営10店舗などの営業で,飲食事業は年商18億円程度となっています。経営環境が厳しさを増す飲食事業で,フレンチ風ギョーザのカウンダーバー業態やキッチンカーなど小回りの利く業態を開発して利益改善を目指します。本業の旅客事業は,市街中心地ではインバウンド需要の取り込みで好調なものの,郊外部や山間部では苦境に立たされており飲食事業を活用して地域とのつながりを模索する狙いもあります(日経地方:2019/9/10:関西経済)。奈良交通に限らず各地の旅客会社はFCあるいは直営で飲食事業を展開しており,それぞれがこれから飲食事業をどう活用していくのかが地方創生の鍵となりそうです。

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