日経新聞9月の「私の履歴書」は,すかいらーく創業者の横川竟氏でした。昭和から平成にかけて外食業界を牽引した「すかいらーく」の光陰を,横川竟氏が生の声で語ったよい記事だったと思います。
僕たちは上場した頃から道を誤った。いい店である前に,「優良企業」になってしまった。会社というのは大きくなると壊れる。だからある時点でいったん足を止めないといけない。外食人生約50年。「経営って難しい」というのが率直な感想だ。(中略)僕が話すことはいつも同じだ。「きれいな店,おいしい料理,親切な接客でお客様の心が安まるお手伝いをしたい」。しっかり育った店長の数の分だけ出店したい(日経朝刊:2018/9/29:38P,私の履歴書「横川竟」最終回より)。
同じ時期に,日経新聞で「1989年からの視点」という5回連載の記事が掲載されていました。私事で恐縮ですが,筆者は新卒で就職したのが1988年,あれから30年経ったわけです。最終回では,2018年サラリーマンお小遣い調査(新生銀行調べ)によると,男性会社員の昼食代は平均570円で1992年の746円と較べても寂しい限り,と締めくくられていました。バブル期のサラリーマンが高級クラブの接待にあけくれていたこと思うと,週3回の牛丼並盛とコンビニ弁当のお昼は,何とも悲哀を感じさせずにはいられません(日経朝刊:2018/9/28:38P)。
そんな悲哀の象徴ともされている「牛丼」,吉野家はブランドイメージを刷新するあの手この手を打ってきています。40~50代の男性がメインターゲットの吉野家ですが,女性や若者といった新たな客層を取り込むべく,通常の牛丼(並390円)より高めの「明太マヨ唐揚丼(並590円)」などをラインアップし,黒を基調としてカフェ風に環境設計された実験店舗を出店しています。この通称「黒い吉野家」は吉野家1600店のうち20店程度ですが,メソッドを確立させて全体の半分程度に広げていく戦略を打ち出しています(日経朝刊:2018/9/26:17P)。
また吉野家は,牛皿(牛丼の具)とビールなどの酒類とで居酒屋需要を取り込む「吉呑み」を展開する店舗の一部で,ワインの提供を始めました。さらに「仕事帰りに軽く一杯」需要を取り込もうという試みです。吉野家が「吉呑み」を始めたのは2013年,一時は1000店超まで広がったものの,郊外店舗は車での来客が多いことなどから一部を見直し,現在「吉呑み」実施店舗は都心中心で275店となっています(日経MJ:2018/9/21:13P)。
ところで,JFA(日本フランチャイズチェーン協会)からは,9月19日にフランチャイズ統計調査(対象期間:2017年3月~2018年3月)が発表されました。外食業のカテゴリー別売上高は,ハンバーガーはマクドナルドの業績回復により前年比8.7%増,日本料理・寿司はインバウンドの根強い人気により前年比1.0%増,コーヒーショップはフードメニューの充実や上質な環境設計が奏功して前年比1.4%増,居酒屋パプは専門業態の伸長や新メニュー開発により女性やファミリー層を取り込んで前年比1.1%増,としています。ただし,JFA統計はチェーン展開をしている外食企業を中心にしており,業態カテゴリーの姿をそのまま映しているわけではない,と筆者は考えています。
例えば居酒屋は,串カツや焼鳥などの単品専門型居酒屋チェーンが活況,総合型居酒屋チェーンはブランドリニューアルなどを行いなんとか水準維持。しかしながら統計から漏れている多くの個人店や中小チェーンは低価格化やアルコール離れから苦戦を強いられており,居酒屋カテゴリー自体のマーケットの縮小傾向は続いている,と見ています。以下に筆者が独自に作成した,2017年の主な業態カテゴリー別バブルチャート(市場成長率,市場規模,市場占有状況)を掲載しておきます。参考になれば幸甚です。