外食チェーンにおける事業再構築補助金活用の可能性

先般,日経新聞社主催「フランチャイズ・ショー」のブースで来場者の相談を受けていると,飲食事業者か否か,あるいはフランチャイズ本部か否かに関わらず,多くの事業者が「事業再構築補助金」に関心を持っていることがうかがえました。「事業再構築補助金」は総額1兆円規模の予算が組まれており,かつてないほどの大きな支援政策になると予想されています。経産省より3月26日に第1回公募要領が発表され,4月15日頃から申請受付開始ということになりました。

事業再構築補助金の申請の仕様としては,これまでの中小企業向け「経営革新計画」の流れをくむもので,製品・市場・販売方法などの新規性を含んだ経営革新計画の策定が求められています。まだ概要が公表されたばかりで個別具体的な事項については良く分からない部分があるものの,現時点である程度解釈できる部分を,飲食業とくに中規模の外食地場チェーンを想定して解説していきます。

業態転換:新しい商品や販売方法など

業態転換の事例としては,「居酒屋がイートインを廃止して弁当宅配事業に転換,設備投資や販促費が補助対象となる」というものが提示されていました。ポイントは,これまで行ったことが無い事業あるいは製品ということなので,過去に少しでも宅配弁当販売をしていたら新規性の要件を満たさないということになります。あるいは,焼鳥店がテイクアウトコーナーを拡げて,これまでのイートイン中心店舗からテイクアウト中心店舗に改装したとしても,本要件は満たさないことになります。どの程度の変更を新規性ありと認めるのかは個別具体的な判断になると思われ,経営革新等支援機関と綿密に擦り合わせをして事業計画を策定する必要があるでしょう。

また,今回の補助金は条件によっては最大1億円の補助(補助率2/3)となり,建物建設費(土地購入費は除外)が補助対象になっていることから,中規模の地場外食チェーンではセントラルキッチンの建設なども視野に入ってくるものと思われます。ただし,セントラルキッチンでどのような経済的効果が見込めるのかを明らかにしないと,いずれは不良資産となってしまう恐れもあります。そもそも,B to CのECサイトで冷凍食品を扱うといったレベルの食品工場を建設しようとすると,さらにコストがかさむ恐れもあり,そもそも製造品質向上のための研究開発体制(R&D)を維持できる組織体制にあるのかから見直さなければなりません。

プロントやサブウェイといった全国チェーンですら,セントラルキッチンを持たずに全てOEMでオペレーションを回していることを考えると,何のための設備投資なのかをよく検討する必要があるでしょう。

事業転換:新しいジャンルの飲食店の開業

事業転換の事例としては「日本料理店が成長の見込まれる焼肉店を開業し,3年後には焼肉事業の売上が会社内で最も高くなっている」というものが示されています。この事業は「日本標準産業分類」により,同じ中分類76「飲食店」の中の小分類762「専門料理店」であっても,細分類が「日本料理店・中華料理店・ラーメン店・焼肉店」と分かれていて,この細分類が違えば異業態とされて新規性が認められるようです(詳細は,総務省:日本標準産業分類:説明及び内容例示を参照ください)。ただし,この場合も該当企業において過去行ったことのない事業である必要があり,今はやっていないけれども過去に同じ事業を行っていたということであると,新規性の要件は満たさないことになります。

ところで,事業転換の事業計画成立要件でネックとなるのが,新規事業が3年で当該企業における最大の売上規模にならなければならない,という点です。既存店舗数が多い地場チェーンだと,その既存事業を超える売上高を新規事業で計画しなければならず,それらを3年で達成するためには綿密なスクラップ&ビルドの計画が必要となるでしょう。これについては,「事業再編も要件に含む」とされているので,別事業の事業譲渡を受ける,あるいはM&Aで合併や吸収などの組織再編を行い,上記の要件を満たすという方法も可能です。ただし,事業譲渡価額の合理性の要件などがどのように判断されるのかなどについてはまだ不明な点が多く,引き続き事務局の見解等を注視しておく必要があるでしょう。

業種転換:フランチャイズ化を活用した無関連多角化

業種転換とは,飲食企業が全く飲食とは関係のない業種,たとえば不動産業とかリサイクル事業などに参入することを指します。これはいわゆる,リスク分散型無関連多角化にあたるものですが,経営資源が潤沢でない中小企業にとって自社の経営資源(人材やノウハウなど)が活かせない無関連多角化の成功確率は,決して高くないと言わざるを得ません。

そこで考えられる有効な手段が,フランチャイズ加盟による多角化です。経産省のFAQには「フランチャイズ化することで事業再構築を行う場合は対象となり得ます。ただし,フランチャイズ加盟料は補助対象経費には含まれません。」と書かれています。したがって,フランチャイズ加盟料は補助対象とはならないものの,フランチャイズ事業に関わる設備投資等の初期投資は補助対象になる,と解釈できます。そう考えると,フランチャイズ事業の中でも設備投資の重たい事業(例えばフィットネスや葬祭場など)は補助金活用の効果が高いと言えます。ただし,初期投資の重たい事業は投資回収期間が長期化する傾向にあり,補助金だけでなくランニングコストからキャッシュフローを計算して判断する必要があるでしょう。

それと,既存の飲食業をフランチャイズ本部として外部にライセンスする事業は補助対象になるのか,ということですが,これは不明な点が多いです。そもそも,フランチャイズ本部構築には設備投資は不要で,フランチャイズ・パッケージを整備するのに外部専門家を活用するということになります。外部専門家については,今回の補助金では謝金の上限が設定されており(1日あたり,大学教授や弁護士は5万円,中小企業診断士等は4万円),コンサルティングの業務委託料の全額が補助対象とはならないようです。いずれにせよ,フランチャイズ本部構築は,補助金ありきではなく,成長戦略として必然性があるかどうかという観点から判断することが必要です。

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