外食チェーンの戦略,トレンド予想

8月は,コロナ第2派がピークアウトしたとみる向きもあれば,まだまだ安心できないと警戒する向きもあり,心の持ちようや生活様式が二極化し始める起点となる時期だったのでしょうか。また安倍首相の辞意もあり,今後の日本はコロナという外的要因だけでなく,国内政治という内的要因からも大きくに変化していきそうです。
そのような中,8月の日経夕刊「人間発見」では,バルニバービの佐藤裕久社長とオイシックスの高島宏平社長の連載がありました。飲食店を起点に地方創生を目指すバルニバービは,都市集中から地方分散というアフターコロナの波に乗っている感じがします。また生産者の声や思いを消費者に届けるオイシックスは,DXやD2Cの流れに乗っているようです。消費者購買心理は「モノ」から「コト」へ,生産性や効率性ではなく「ストーリー性」や「共感性」へと推移しており,その変化はコロナで加速しています。すでに20年も前からエシカル消費を先取りしていた,2名の経営者の先見の明に感慨深いものがありました。

〔Nextストーリー〕居酒屋は負けない

コロナで休業や時短を余儀なくされた外食企業や居酒屋経営者の取り組みが,日経朝刊で4回に亘って掲載されました。1回目に登場したワタミの複数店FCオーナーは,突然の経営危機で資金調達に奔走,居酒屋は普及かもしれないが不要ではない,と語ります。
2回目は養老乃滝,地域密着で人によるコミュニケーションを重視する一方,直営店では接客ロボットを導入してコスト削減を図るなど,生き残りの道を模索しています。3回目は塚田農場の産直へのこだわり,4回目は様々な居酒屋DXが紹介されていました(日経朝刊:2020/8/4~8/7:全4回)。
これまでは,席効率,満席率,回転率といった「効率性」を高めることが売上増のKFSでしたが,三密を避けるオペレーションでその公式は通用しなくなっています。7割経済では利益が出ない居酒屋業態,どのように収益構造を変えれば生き残れるのか,答えはまだ見えてきません。

外食チェーン社長の談

落ち込みが激しい居酒屋業態の比率が高い外食チェーンは,特に厳しい状況にあります。8月の紙面に載った4社の社長インタビューの抜粋を上げておきます。

ペッパーフードサービス 一瀬邦夫社長

「枯れた植木に水をやる者はいない」という母親の言葉を思い出し,ペッパーランチを売らなければ会社が「枯れ木」になるだけと腹をくくった。やせ我慢してても明るくふるまえば,必ず誰かが助けてくれる。ここまで追い詰められれば,恐れるものは何もない。(日経朝刊:2020/8/11:15P)

鳥貴族 大倉忠司社長

コロナは人とのつながりを否定された初めての出来事だ。人は人とつながりたいものだし反動は来る。自粛期間明けの外食で言葉にならない解放感を覚えた。居酒屋の存在が良い意味で認められたと思う。居酒屋業態の未来は明るい。(日経MJ:2020/8/10:11P)

ワタミ 渡辺美樹社長

「ちょっと一杯」の需要が激減した。「何となく飲む」という居酒屋の大きな需要な無くなった。居酒屋は不要ではないが今後の使われ方は変わる。生活様式の変化に合わせて手を打っていきたい。居酒屋は空気が主で料理は従,その発想を大事にしていきたい。(日経MJ:2020/8/12:15P)

エーピー・カンパニー 米山久社長

テレワークは普及しているが,コミュニケーションを円滑化させる居酒屋という空間の価値は変わらない。食事をメインにお酒を楽しめる演出をし,安くて酔える居酒屋という概念を変えていく。飲み放題文化はダメ,お酒は酔うものではなく,食事とともに楽しむものだ。(日経MJ:2020/8/14:11P)

今後の外食トレンド予想

  • 値下げ/大盛り

2008年のリーマン・ショックによるデフレの波で外食業界は低価格路線となり,このころから「餃子の王将」や「鳥貴族」などの割安感のある業態が力をつけてきました。一方で,値下げ競争で疲弊した牛丼チェーンは「メガ盛り」などの大盛り戦略で業況を回復してきた経緯があります(日経MJ:2020/8/21:3P)。アフターコロナを模索する昨今,同じような戦略を取るチェーンは少なくありませんが,外食機会が減った分だけ1回あたりの単価を上げようとする消費者心理もみられ,安易に「値下げ,大盛り」だけが正解ではないと思われます。

  • ランチ/郊外/少人数

外食復活の鍵として,ランチ時間帯,住宅周辺立地,少人数需要の3つが挙げられていました(日経朝刊:2020/8/25:14P)。飲食ではありませんが,筆者のクライアントである千葉県北西部に展開する美容室チェーンは,コロナの影響で全店舗前年比120%と活況を呈しているとのことでした。これは,これまでは青山や表参道といった都心の美容室に通っていた人たちが,地元の美容室を利用したからだろうと推察されます。
また働く人たちの周りではリモートワークが進むと同時に,就業時間の捉え方もフレキシブルになってきているものと思われます。夕方から複数人数でお酒を飲むというシーンから,ランチ時間に少人数でちょっといいものを食べながらコミュニケーションを楽しむといった,パワーランチ型の需要も増えているのではないでしょうか。

  • プチ贅沢/おひとり様/大皿より1人前

飲食情報サイトやSNSなどでは,寿司,焼肉,天ぷらなどのプチ贅沢なものの投稿が増えているそうです。また「ひとり鍋」業態,大皿料理を取り分けるスタイルの業態が指示されているようでもあります(日経MJ:2020/8/28:1P)。この時期に合わせたかのように「焼肉ライク」を投入してきた,ダイニングイノベーション西山社長には端倪すべからざる「強運」が備わっているようです。
おひとり様や小分けポーションは置いておくとして,「プチ贅沢」のトレンドは注視しておく必要があるでしょう。コロナに対する振る舞いが二極化するのに合わせて,「将来に対する不安から警戒を緩めない→緊縮した生活→外食デフレ」というグループと,「将来を恐れるのではなく今を受け止める→落ち着いて新常態を楽しむ→外食プチ贅沢」というグループに分かれるのかもしれません。

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