外食業界の不易流行

5月の外食フランチャイズ関連のトピックスのなかで,筆者が個人的に衝撃を受けたのは,「ピザ・ナポリス」の遠藤商事HD倒産の記事(日経MJ:17/5/1:P15)でした。遠藤商事の直近期の年商は25億円,負債総額は13億円,急激な成長拡大路線が裏目に出て資金繰りがショートしたとのことです。
 遠藤商事は,カリスマ経営者の数奇なプロフィールなどが注目されてTV出演も多く,最近目立っている飲食ベンチャー企業のひとつでした。さらに2016年には,独立行政法人中小企業基盤整備機構の主催する「ジャパン・ベンチャー・アワード」で中小企業庁長官賞を受賞したことで,有力ベンチャー企業としてお墨付きを得たかに見えていました。中小企業診断士という国家資格を持つものとしては,少々複雑な思いがします。
 企業の成長期には,いかに儲けるかという「事業戦略」だけでなく,ヒト・モノ・カネ・ノウハウ・ネットワークといった個別の経営資源を適正に配分し効率性や生産性を高めるか,という「機能戦略」が必須となります。「短時間で焼き上げるピザ窯」という競争優位性のあるノウハウを持っていただけに,中長期視野に立った財務戦略が無かったことが悔やまれます。

一方,「名代富士そば」を国内116店舗,アジア地区10店舗展開し,創業50年を迎えたダイタンHDの記事(日経MJ:17/5/22:P19)が印象的でした。ダイタンHDは,単一事業の立ち喰い蕎麦業態のみを磨き続け,安くて美味しい蕎麦へのこだわりと立地判断に関する独自のノウハウで,2017年3月期の国内売上高は90億円となっています。今後2020年までに,アジア地区でフランチャイズ方式により30店舗程度に業容拡大する予定とのことで,81歳になる創業者の丹道夫会長は,ますます血気盛んのようです。不易と流行,企業の継続「ゴーイングコンサーン」という観点からすればどちらも大切なキーワードですが,愚直に求道し「不易」なものに価値を置くのも有効な戦略であると実感させられます。

さて,第43回飲食業統計(2016年)が発表されました(日経MJ:17/5/24:P1~5)。店舗売上高(システムワイドセールス:直営とFC店の売上を合計したもの)10位以内には,ゼンショーHD,日本マクドナルド,すかいらーく,コロワイドと,常連企業が続きます。ところで1面には,店舗売上高伸び率ランキングとして,3位には居酒屋展開の「ファイブグループ」,7位には各方面から注目されている「サブライム」,16位にかつやの「アークランドサービスHD」が入り,それぞれの企業がクローズアップ記事が掲載されていました。
「ファイブグループ」では,顧客との距離の近い接客で従業員のモチベーションと定着率の向上が図られている事例,「サブライム」では,業務委託形式による社員独立制度の導入で優秀な人材が採用できている事例,「アークランドHD」では,オープンキッチン導入による演出効果で従業員のモチベーションとスキル向上が図られている事例,が紹介されています。
外食市場の縮小,ブラック問題,採用難などで逆風ともとれる外食業界ですが,ベンチャー系企業はどこ吹く風で,積極的に新しい取り組みをしているようです。くれぐれも,成長期には,「ヒト・モノ・カネ・ノウハウ・ネットワーク」を内部統制する機能別戦略の目を持つことを願っています。

●第43回飲食業統計(2016年)発表(日経MJ:17/5/24:P1~5)
●「富士そば」のダイタンHD,2020年までに海外40店舗進出(日経MJ:17/5/22:P3)
●オレンジフードコート、ドムドムハンバーガーをホテル運営企業に売却(日経:17/05/18:P15)
●マクドナルド、今期は新メニュー好調により純利益2.7倍の見通し(日経;2017/5/11:P15)
●KFCがピザハットの全株式をファンドに売却(日経;2017/5/11:P15)
●串カツ田中、立ち飲み形式の小型店を開業(日経MJ;2017/5/7:P15)
●「ナポリス」の遠藤商事HDが破産手続き申請(日経MJ:17/5/1:P15)

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