外食チェーンにおけるキャッシュレス化・IT化の波

令和元年6月の大手外食チェーンの動向で筆者が注目したのは,コメ卸最大手の「神明」が「スシロー」と「元気寿司」の経営統合を断念したニュースでした(日経朝刊:2019/6/19:15P,他)。神明は,チャネルキャプテンとして垂直統合型M&Aを目指していましたが,神明が筆頭株主であるスシローも神明傘下である元気寿司も独自路線での成長を目指すことを発表しました。外食企業は企業文化や価値観がそれぞれ独特で,それらが支障となってPMI(合併後の地ならし)が上手くいかないケースが多いようです。最近の大手外食チェーンの合併でうまくいったのは,日レス・ドトールHDくらいではないのでしょうか。その他個々の動きでは,「串カツ田中」の東商1部市場替え(日経夕刊:2019/6/19:7P),「いきなり!ステーキ」の米国ナスダック撤退(日経夕刊:2019/6/15:3P),米菓子メーカー大手「三幸製菓」のフランチャイズ加盟事業参入(日経MJ:2019/6/9:13P)などが目立ちました。

さてそれでは今月は,ここ最近筆者がコンサルタントとして注目している,外食チェーンの急速なキャッシュレス化・IT化の波を見てみたいと思います。キャッシュレス化は,QR決済の登場と政府のキャッシュレス化推進の後押しを受けて戦国時代といった様相を呈しており,共通端末や相互乗り入れなどユーザビリティが最適化するのには数年かかると筆者は予想しています。

●進むキャッシュレス化,外食チェーンの対応はいかに

ホットペッパーグルメ外食総研の調査では,飲食店での支払い方法は現金派が47.1%,キャッシュレス派が52.9%と,ほぼ拮抗しています。キャッシュレス決済の方法については,クレジットカード(デビットカード含む)が約8割と圧倒的に多く,次いでSuicaやPasmoなどの交通系電子マネー,waonやnanacoなどの流通系電子マネーと続き,LinePayやPaypayなど最近話題のQR決済の使用率は8%にとどまりました(日経MJ:2019/6/3:2P)。

また野村総合研究所の発表※によると,2016年時点での日本のキャッシュレス化は19.8%にとどまり,キャッシュレス比率第1位韓国の96.4%,第2位英国の68.7%に較べて大きく後れを取っています。英国では2012年のロンドンオリンピックを契機にキャッシュレス化が進んだのを鑑みるに,現在日本においても政府が推進するキャッシュレス化政策の効果は2020年のオリンピック後に数字として表れるのではないかと予想されます。
※平成29年度産業経済研修所委託事業「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」(野村総合研究所)

外食チェーン各社はキャッシュレス決済に連動した共通ポイントの加盟,離脱の動きが活発になっています。ゼンショーHDは楽天Rポイント,NTTdポイント,三菱商事系Pontaに参加,ドトール・日レスHDはTポイントを離脱してNTTdポイントに参加,大戸屋HDは三菱商事系Pontaを離脱して楽天Rポイントに参加,などとなっています(日経MJ:2019/5/10:15P)。すかいらーくHDでは,現在1000店舗で取り扱っている宅配事業にPayPay(ペイペイ),楽天ペイ,LINEペイの3種のQR決済を導入し,顧客の利便性を高め需要拡大を狙います(日経MJ:2019/6/5:13P)。福岡に繁華街である天神地区では飲食店など1600店舗が,スマホ決済サービス8事業者で仕様の違うQRコードを自動識別できる端末を設置し,日本で初めて「業者間の垣根を超えた」QR決済サービスを導入します。福岡市の高島宗一郎市長は,「福岡天神を訪日客にも買い物しやすいキャッシュレス決済の先進地域にする」としています(日経地方:2019/6/6:19P)。

●外食業界に影響するIT化,AI活用の環境変化

タイをはじめとする東南アジアでは,レストラン予約アプリ「イーディゴ」を使って客席の稼働率に合わせて最適価格設定決定するシステムを導入する飲食店が増えています。この仕組みは,繁忙期は高く閑散期は安くなるという航空機やホテルで導入されている変動価格制と同様で,AIを使って過去のデータなどのアルゴリズム分析を行い最適価格を決定しています。イーディゴCEOマイケル・クルーセ氏は,実証を重ねて日本市場にも参入したいとしています(日経朝刊:2019/6/7:1P,5P)。

シンシアージュ(東京・世田谷)が運営する「どこでも社食」は,授業員の食費を補助したい企業とレストランをつなぐサービスです。「どこでも社食」は2017年7月のリリース以降,現在ではメルカリ社をはじめとする約30社(利用できる従業員数では数千人),提携レストラン数ではチェーン店を中心に約7000店のネットワークとなっています(日経MJ:2019/6/28:1P,14P)。昭和の時代から,単体企業が近隣の飲食店利用に対して補助券を出すといった対応はしていましたが,それがITによりネットワーク化されたということでしょう。

最近,筆者がコンサルティングの現場でご紹介しているのが「単発バイト」マッチングアプリの活用で,働きたい人が空いてる時間をエントリーしておき募集をする店舗側が個々の勤務希望者にアプローチする,というサービスになります。提供元としては,リクルート系「ジョブクイッカー」,フルキャストグループ「おてつだいネットワークス」,サイバーエージェントが出資している「タイミー」などが有力なところでしょう(日経朝刊:2019/6/6:14P)。単発とはいうものの,エントリー者の履歴や雇用側の評価などのデータ蓄積により精度の高い採用が行える,というメリットを評価しています。

●ジョブクイッカー
●おてつだいネットワークス
●タイミー

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