外食業界の最新トレンド,機動力はより先鋭化

外食業界の3潮流

外食業界の新潮流として,①シェア店舗,②移動販売,③宅配専業,の3つが紹介されました(日経朝刊:2019/8/30:17P)。ここのところ筆者はセミナーなどで,外食業界のトレンドは「機動力・地域密着・専門店化」とお伝えしており,その中の機動力がより先鋭化してきた観があります。

最近では異なる業態がキッチンやスタッフを共用することでコストを抑えるという,シェア店舗のケースが見られるようになりました。モスフードサービスは,高級モスバーガーと喫茶業態マザーリーフを併設した店舗を横浜桜木町に出店しています。ハンバーガーと喫茶店ではピークタイムが違うため,キッチン作業の平準化が図れるということです。ドトール日レスHDは洋麺屋五右衛門と星乃珈琲店,リンガーハットはとんかつ浜勝とリンガーハットを併設し,シェアキッチンによるコスト低減効果を狙っています。
元来,飲食業界ではランチなど営業時間を限定して営業を委託する,「やどかり営業」的な運用形態が見られました。現在は同一資本におけるシェアキッチンの事例が主となっていますが,今後別資本による提携が出てくるのかも注目したいところです。

移動販売に関しては,何を売るのかというコンテンツもさることながら,どこで売るのかというチャネルの問題が大きくビジネスモデルを左右するといっても過言ではありません。それをITで解決したのが,空きスペースとキッチンカーのマッチング・サービスを提供するMellow(メロウ,東京渋谷)です。メロウは2016年5月からキッチンカーの仲介事業を始め,現在では都内を中心に空きスペース140カ所と提携し,キッチンカー登録台数は550台と東京都内の移動販売車延滞の2割弱を占めるまで成長しました(日経MJ:2019/5/10:1P)。
今後は物流拠点にセントラルキッチンを配備するなど,キッチンカーの利便性を高めていく方向とのことです。筆者は,20年ほど前に東京都内を席巻したバルチックカレーを思い出しましたが,メロウは撃沈されることなく発展していきそうです。

客席を持たないデリバリー専門のゴーストレストランも注目されていて,今回の3潮流のひとつに数えられています。最近では,ウーバーイーツや出前館によるデリバリーが大手ファミレス企業にも採用されるようになってきました。そのような中,デリバリー専門業態はどの程度定着するのでしょうか。
最近,筆者の住む近隣では,某デリバリーピザチェーンの拠点が開業半年で閉店しました。過去,中華クイック123などシステムが瓦解したチェーン本部なども目にしてきました。実店舗の無いデリバリー拠点は,知名度向上とブランドイメージ確立に時間がかかり,また配達可能商圏へのエリアマーケティングを周到に計画する必要もあります。筆者はデリバリーについてはあまり楽観的な見通しは立ててはおらず,しばらくは状況を見守りたいと思っています。

居酒屋業態のトレンド

苦戦が伝えられる総合居酒屋業態,業態ブラッシュアップで巻き返してきているようです。2019年8月の記事から,居酒屋業態に関する記事をピックアップしました。まずはプラスの記事から。
ワタミの2019年4~6月期の連結決算は営業損益が8400万円の黒字と,6年ぶりに黒字となりました。鶏専門居酒屋「三代目鳥メロ」や「ミライザカ」などの新ブランドが好調で,業態転換が奏功しているようです(日経朝刊:2019/8/14:15P)。鳥貴族は,2020年7月期である今期,出店を再開させます。出店ペースが速すぎて自社競合などが発生し前期は出店を凍結していましたが,足元の業績が回復したのを受け地方を中心に出店を再開します(日経朝刊:2019/8/20:13P)。串カツ田中HDは,2019年11月期配当を前期より17円増配,東商マザーズから東証1部への上場変え記念配当も15円と,株主還元を行います。連結営業利益は前期5%増の5億9000万円を予想しており,堅調な業況が増配を下支えしています(日経朝刊:2019/8/20:15P)。

そしてその他のニュースです。焼鳥チェーンのひびき(埼玉県川越市)が民事再生法の適用を東京地裁に申請しました。負債総額は77億円,店舗拡大により人件費増やM&A費用などが財務状態を圧迫したということです(日経朝刊:2019/8/22:15P)。三光マーケティングフーズは,食肉卸のエスフーズの第三者割当増資を受け5億1500万円を調達します。これはバッドニュースというわけではないものの,直下の三光マーケティングの業績は厳しく,議決権の9%を握ることになるエスフーズの発言力は強まりそうです(日経MJ:2019/8/30:15P)。

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