コロナ後に生き残るのはどんな業態か

5月後半に緊急事態宣言が解除となり,経済活動は徐々にコロナ前の姿を取り戻しつつあります。そうは言うものの業種業態によってその回復状況は大きく異なり,外食産業が以前のような稼働率にまで回復するのは時間がかかる,あるいはもう活況を取り戻すことはないだろうという悲観論さえあります。
年末に次ぐ書き入れ時である花見歓送迎会需要と,業態によってはレジャー客も取り込めるGW需要を逃し,外食産業の足元の業績は惨憺たるものです。日本フードサービス協会の調べによると,2020年4月の外食売上高は前年の約4割減で,特に宴会需要の比率が高い居酒屋業態は前年同月比9割減,商業施設やオフィス街立地の多いカフェは同7割減となりました。一方,そのような中でもテイクアウトが底支えしたファストフードは,同15%減と持ちこたえています(日経朝刊:2020/5/26:14P)。

ところで最近クライアントから,「アフターコロナに生き残るのはどんな店か」ということを訊かれることが増えました。それに対して筆者は首尾一貫して,「イートイン偏重でない機動力のある業態が生き残る」とお答えしています。筆者はもうかれこれ10年ほどセミナーや執筆を通して,外食業態における機動力の重要性を説いてきました。今,コロナ渦中ですべての外食チェーン企業が,この課題に本腰を入れて取り組まなければいけなくなっています。機動力とはすなわち,①テイクアウト,②デリバリー,③Eコマース,④ケータリング,⑤出張サービス,の全てを指します。

外食チェーンのEコマースへの取組み

先月はテイクアウトとデリバリーについて解説しましたので,今月は③Eコマースについて取り上げたいと思います。「塚田農場」を展開するエー・ピー・カンパニーは,オイシックスの「おうちレストラン」で商品を供給するほか,冷蔵食材の開発に力を入れています(日経MJ:2020/4/29:5P,日経朝刊:2020/5/25:5P)。
外食や卸のECサイト開設は増えており,EC基盤サービス提供の世界最大手であるショッピファイの日本法人では,4月の新規サイト開設数が3月の1.5倍になったということです。ゴーゴーカレーグループでは,3~4月のネット通販売上は前年同月比の3倍超となりました(日経朝刊:2020/5/23:11P)。
外食チェーンではありませんが,生産者が行き場のなくなった業務用商品をSNSで消費者に直販する動きも出ており,消費者とのコミュニケーションが生産者の励みになっているということです。本紙では,タイやウニなどの高級魚介類の生産者が紹介されていました(日経夕刊:2020/5/23:1P)。

Eコマースの抱える課題

日経新聞のコロナ禍消費者調査では,食品のネット注文が以前より増えたと答えた人が全体の38%となり,外出自粛の中で消費者はネット購買のウェイトを高めたようです。ただし,送料の割高感や在庫切れ,やらせレビューなどの不信感などの課題も見え,インフラとしてのさらなる整備が今後必要となってくるでしょう(日経MJ:2020/5/29:1P)。

アフターコロナに生き残る外食チェーン

外食の業態構成要素はQSCAです。テイクアウト,デリバリー,Eコマースは,C(コスト)に関しては,サービスのための人件費と場所代がかからないためその分はコストを抑えられますが,配送等に係わる諸費用がオンされるため,正確な原価計算が必要になります。またこれらは,A(アトモスフィア=飲食空間の雰囲気)を欠いているため,いかにその部分をQSでカヴァーするかということが大切になります。Q(クオリティ)の部分では,料理が冷めない包材,配送時に盛り付けが崩れない工夫,また包材自身がお洒落でハレを演出するなど,工夫が必要となるでしょう。またS(サービス)では,デリバリーにおける商品手渡し時の配達員の印象や,Eコマースにおける消費者とのコミュニケーションなどが,トータル消費者満足度を左右するものとなります。
いずれにせよ,ファミレスや居酒屋の大手全国チェーンがコロナ渦中で大量閉店しており,コロナ後は空き店舗や居ぬき店舗が増えるのは必定です。それらの空物件に対して,機動力のある業態(筆者の個人的な意見としては機動売上比率4割を目指したい)をはめ込めるかどうかが,コロナ後の業態生き残りとチェーン成長に大きく関わるものと予測しています。

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