今月は,外食チェーン各社の価格政策について概観します。残業代支払いや社会保険加入の厳格化,時給アップや採用難による人件費の高騰,また食材や飲料(特にビール)の値上げによる原価の上昇で,大手外食チェーンは値上げを余儀なくされています。串カツ田中は7月からハイボールを370円から390円に,いきなりステーキは7月からリブロースステーキを1グラム6.5円から7.3円に,リンガーハットは8月10日から西日本エリアにおいて長崎ちゃんぽんを520円から540円に,ハイディ日高は9月から餃子を210円から220円に,つぼ八は10月より生ビールを460円から470円に値上げしています(日経MJ:2017/9/29:1P)。
そしてついに,安さの代名詞のように言われていた「鳥貴族」も,10月から焼鳥や酒類を280円から298円に値上げしました。鳥貴族にとっては28年ぶりの値上げとなり,大倉忠司社長は「食材や人件費の高騰により苦渋の決断をした。ただし300円を超えてしまうとお客様への負担感が大きくなるので298円とした」と語っています(日経朝刊:2017/9/29:17P)。
また,アサヒビールが2018年3月から業務用を中心としてビール系飲料を値上げすると発表しました(日経朝刊:2017/10/5:15P)。6月には,スーパーなどでのビール類の安売り規制に国税庁が動きましたが,業務用も何らかの指導があったものと思われます。世界的に見れば,アルコール業界はグローバルなM&Aによる再編が続いており,日本のビールメーカーも経営基盤を盤石にしておかないと外国の大手アルコールメーカーに飲み込まれてしまうかもしれません。憶測ですが,当局はそのような事態が税収低下につながることを恐れたのでは,とも考えられます。いずれにしろ,どの外食チェーンも懐事情が苦しいのは同様であり,これを機に安売りのチキンレースを終わらせて値上げをしようとする動きが本格化してくるでしょう。
ところで,外食業界では値上げの機運が高まっていますが,その中であえて「安売り」をすることでニュース性を持たせる,というマーケティングも有効です。回転ずしチェーン4位の「かっぱ寿司」は,11月下旬から1皿1貫にして50円で発売,併せて11月1日から22日までお昼のアイドルタイム限定で男性1,580円,女性1,380円食べ放題を実施します(日経MJ:2017/10/30:19P)。串カツ田中は11月1日から11日の午後6時から9時までのピーク時間を除いて,Yahooプレミアム会員の予約者限定で1,111円の串カツ11種類食べ放題を実施します(日経MJ:2017/10/30:19P)。
外食主要34社の9月の既存店売上高は,6割が増収,8割が客単価アップということで好調(日経MJ:2017/10/23:11P),一方で東京商工リサーチによると2017年上半期では飲食業の倒産件数は370件で前年同月比21.1%増と3年ぶりに増加(日経MJ:2017/10/30:15P),ということで,ダーウィンではありませんが「変化に対応したもの」が生き残っているように感じます。これから向こう1年くらいの価格政策を中心としたマーケティング施策の巧拙が,外食チェーンの業績を大きく左右しそうです。
(文中の価格はいずれも消費税抜き)
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