外食チェーン出店戦略と業態づくりの転換点

ここ最近の外食チェーンの話題といえば,人手不足や原料高騰などコストプッシュ関連が多いようです。このような外部環境変化に対する外食チェーンの対応は連日新聞紙上を賑わせていますが,各チェーンの特徴などを6月の記事からピックアップして解説します。

全国1000店舗超のチェーン展開をしている「すかいらーくグループ」や「ゼンショーHD」は,市場飽和や人手不足によって,現在では年間出店ペースを10店程度に抑制しています。パートタイム雇用も含めて飲食調理関連の有効求人倍率は約3.2倍と,95年統計開始以来の高水準となっており,大量出店に必要な人の確保が難しくなってきています(日経朝刊:2018/6/16:2P)。
昨年度大量閉店や「いきなりステーキ」へのFC加盟が話題となった「幸楽苑HD」は,2019年3月期の新規出店を10店舗程度に抑える方針です。同期に西日本の不採算店17店の閉鎖も予定しており,店舗数は500店程度になる見込みです。同社の新井田社長は前期32億円の最終赤字となった原因を出店戦略の判断ミスとしており,「経営陣一同,抜本的見直しにより事業を再構築する」と説明しています(日経MJ:2018/6/1:13P)。

規模の経済性すなわち「スケールメリット」享受にも限界があり,何か歯車が狂って負のスパイラルに陥ると加速度的に業績が悪化するのがチェーン・ビジネスの怖さです。また,既存店の売上落ち込みを新規出店でカバーするのが常態化してしまうと,建設費など初期投資の支払期限と現金商売で売上金が入る時期とのタイムラグにより一時的なキャッシュインが生まれてしまい,巨大な「自転車操業」の図式が出来あがることにもなります。昨今のような厳しい経営環境下においては,収益性確保や内部統制確立など,経営の基礎固めをするのが無難といえるのではないでしょうか。

求人募集情報大手リクルートジョブズの6/14発表によると,首都圏・東海・関西の三大都市圏におけるパートアルバイト募集時平均時給発表,前年同月より1.8%高い1024円でした。同業大手のパーソナルキャリアによれば,5月の全国のパートアルバイト募集時平均時給は,前年同月より3.6%高い1032円でした(日経朝刊:2018/6/15:20P)。
中国ネット通販国内第2位の京東集団(JDドットコム)は,従業員のいない無人ロボットレストランを展開するそうです。客はスマホで注文,調理・盛付け・配膳をロボットがするのだそうです。ロボットを活用したレストランは,すでにアリババ集団が中国国内で多店化を進めていますが,完全無人という業態は初めてです。2018年8月には,4000㎡の敷地面積となる第1号店を開店の予定で,今後はFC方式で出店を加速する方針です(日経朝刊:2018/6/1:11P)。

最近,グルメ回転ずしの雄「銚子丸」(JASDAQ)や,クリエイトレストランHD傘下の「磯丸水産」もオーダー用にタッチパネルを導入するようになりました。これらの業態は,カウンター内の職人との掛け合いや,民芸風ユニフォームを着たホールスタッフとのコミュニケーションが,いわゆる「ノリ」を演出していたと,筆者は個人的に評価しています。人手不足という現状を鑑みるに,背に腹は代えられないところはあるのでしょうが,業態の付加価値を削ぐことにはならないか,少し気がかりなところです。

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