2020年はコロナで幕を開けコロナで終えた1年でした。とはいえ,ここに来て第3波到来あるいは変異型発生など暗澹たる話題が続き,コロナ禍はまだまだ収束の気配を見せていません。そのような状況下で新常態が模索される中,異分野でのひとつのエピソードを紹介したいと思います。それは毎年大阪城ホールで行われている冬の風物詩「サントリー1万人の第九」です。
今年はコロナ禍のため,会場に1万人の大合唱団を配してコンサートを行うことができませんでした。それでも,こんな時期だからこそ人と人とのつながりを大事にしたい,どんな形でもいいから1万人の人たちとつながる演奏をしたい,という総監督や製作者たちの思いが,新常態での「1万人の第九」を成功させました。実際に会場で歌う人たち,リモートで世界各国から歌う人たち,スマホやビデオで歌う動画を事前に投稿した人たち,そういった様々な形で1万人が「歓喜の歌」を歌いあげたのです。
「コロナでも新常態でも人はつながることができる」そんな感動と,「多様性や共感性に満ちた新しい社会が到来する」と感じた瞬間でした。私は,サントリー宣伝部に在籍していた時代に東京担当者として「1万人の第九」に関わったこともあり,特に感慨深くこの「バーチャル1万人の第九」を見ていました。そんな気持ちを胸に,本ブログの本題である外食業界の今後を予想してみたいと思います。
外食の機会は減少する
人間は食べなければ生きていけないので,食自体が無くなるとか減るとかいうことはありません。しかし,現実的にリモートワークが進み各自が自宅やコワーキングスペースで仕事をするようになれば,都心のオフィス近くで外食するという機会は当然減ることが予想されます。逆に,リモートワークに対応するディバリーやテイクアウト,あるいは自宅で簡単に食事ができるミールキットやレトルトなどの商品の需要は伸びるでしょう。外食産業としては,都心型か郊外型かという立地戦略を大きく転換させる必要がでてくるし,イートイン以外の需要を取り込める業態やビジネスモデルの構築が必要となります(これらはすでに,2020年に各社が取り組んでいることです)。すなわち「郊外×機動力」を軸にしたモデルへの転換は,さらに加速するものと思われます。
食の業態は二極化する
そのように外食機会が減っていく中,あえて外食をしようと思う顧客のニーズは何かというと,そこでしか得られない体験を求めるということになるでしょう。都心型ランチ需要のような「時間がないから外食」というような時間を節約する外食ニーズではなく,せっかくの外食だからリッチな体験をゆっくりと時間をかけて味わいたいというニーズが主流になるものと思われます。外食の3つの要素である,料理そのもの,ホスピタリティ,環境や空間のそれぞれに,付加価値を持たせた業態が生き残るでしょう。これは,外食が高客単価へ流れるというよりも,そのような高付加価値を提供する業態と,料理だけ,ホスピタリティだけ,空間だけ,あるいは料理と空間だけ,といういような割り切った業態に二極化するということでもあります。世の中ではK字回復というように二極化を予測する向きがありますが,外食業態も同じく二極化するものと思われます。
食を囲んだ人的交流は無くならない
おひとり様需要や個食が注目されてはいますが,食事をしながらの人とのコミュニケーションの価値が減ぜらているわけではありません。バーチャル・コミュニケーションを楽しむという方向性もありつつ,リアルでの価値が無くなるわけではなく,リアルとバーチャルの組み合わせで人は絆を築いていくのだと思います。最近では,グランピングなどアウトドア空間で人とのコミュニケーションを楽しむ人は少なくありませんし,決められた店舗ではなく,ケータリングや出張シェフなどを利用して人との交流を楽しむ人たちも増えています。そう考えると,外食は店舗という「モノ,物件,土地」に縛られない,自由な形で提供され,人的交流の潤滑油となる方向性が考えられます。時代は「所有から使用へ」意識が変わっていくものと個人的には感じており,その流れに沿って,外食の提供スタイルも変わっていくのではないかと思っています。
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