11月はGo Toイートで巷に客足が戻ってきたという感じで始まったものの,感染者数増加で一気に業容は冷え込んでしまいました。感染拡大地域はGo Toトラベル除外,大都市圏では飲食店に自粛要請と,師走の書き入れ時の宴会売上が期待できない状況となっています。元々,外食業界では年末に稼いで年明け閉店するというパターンが散見されました,この冬はそのパターンが加速しそうで考えるだけで陰鬱な気持ちになります。しかし気を取り直して今月の新聞記事を概観し,明日への明るい方向性を見ていきたいと思います。
外食だけでなく中食も喰われている?内食の伸長
一社)日本総菜協会によると中食市場は2017年に10兆円の大台に乗ったということで,その後も順調に伸びているという論調でした(総菜白書より)。そんな好調な中食も,コロナ禍では家庭で調理をする「内食」に少なからず影響を受けているようです。富士経済に調査によると,2020年の総菜・中食市場は前年比3.9%減となりそうだということでした(日経MJ:2020/11/13:11P)。
もっともこれらの中食売上の統計データは,スーパー・コンビニ・デパ地下・お弁当店などの小売型総菜販売のものであり,飲食店のテイクアウトやデリバリーによる売上は含まれていません。ですから消費者目線でいえば,スーパーで買うお惣菜が減っても飲食店から買うテイクアウト商品などが増えているので,感覚としてはいわゆる「出来合い」商品としての中食の利用が減っているということにはならないでしょう。
直近のトレンドとしては,中食需要は「ケ・ハレ」に二極化していると筆者は見ています。つまり,スーパーやお弁当店で買う日常食としての総菜と,ホテルのお取り寄せ食材やおせち料理のような特別感のある「プチ贅沢」中食は別物であり,外食企業は「プチ贅沢」の「ハレ」需要を狙ったほうが得策だろうと考えます。
もっともコロナ禍の前までは,筆者はスーパー等の総菜に伍するためには店内イートイン価格の8割程度の値ごろ感に設定しなければいけないと主張していました。しかしながら,昨今のこの状況ではスーパー総菜の値ごろ感の1.5倍以上の「プチ贅沢」を狙い,かつ「内食」のニーズも捉えるべく半調理品を「ミールキット」として販売する,そしてその調理方法をYouTubeなどで配信する,というのが効果的だと考えます。さらには,料理の出来上がりをインスタグラムの#ハッシュタグで拡散するというようなマーケティングができれば,されに相乗効果が発揮されるでしょう。
ミールキットは日本だけでなく,ロックダウンの激しいイギリスでも売れているようです。ミシュラン星付レストランのシェフが提供するミールキットは45ポンド(約6,000円),お店で食べる価格の約半分で済むので好評ということでした(日経MJ:2020/11/23:8P)。
脱イートイン,外食業界の機動力はどこまで活かせるのか
昔から出張調理人という職業はありましたが,飲食業界では決してメインストリームではありませんでした。しかしコロナで現実的に店舗でのイートイン売上が見込めない中で,出張調理やケータリングといった機動力を活かして売上確保をする店舗も増えてきました。これらは,外食できない分自宅でプチ贅沢に食事を楽しみたい,という消費者のニーズを取り込む流れと言えるでしょう。出張料理サービスのプラットフォームを提供しているシェアダイン(東京・港)には,登録シェフが現在830人いるとのことです(日経夕刊:2020/11/21:1P)。
ロイヤルホストは「おうちで本格的な各国料理を」ということで,冷凍食品を45種類ラインアップしました。冷凍食品は調理後急速冷凍するため,家庭で温め直しても作り立ての味がそのまま再現できるというメリットがあります(日経MJ:2020/11/30:13P)。ところで冷凍食品を開発するには大規模な食品製造工場の生産ラインが必要だし,冷凍食品製造やレトルト食品製造の許認可も必要となり,中規模チェーンのセントラルキッチンでは要件を満たすのが困難な場合もあります。そういった場合は,工場増設とOEMそれぞれの採算性をシミュレーションして投資の意思決定をすることが重要になります。
外食業界のDX,AIやIoTが作り出す未来に光を見る
外食業態のDX化もさることながら,DXによるオペレーション改善やマネジメントの高度化に光を見ることができるのではないでしょうか。リクルート社はi Padで操作する予約エントリーシステム「Airウエイト」で店頭から行列を無くすサービスの提供を始め,物語コーポレーションは予約システムEPARKも導入し行列を回避する運用を始めました(日経朝刊:2020/11/17:14P)。従来のように行列させることで客を呼ぶというというのではなく,コロナ禍では行列させないことで機会ロスをなくすというように発想転換したということなのでしょう。
ラーメンの幸楽苑やワタミの焼肉新業態では配膳下膳のAIロボットがフロアを移動するような店舗を増やしてきています。お酒が出る業態においては,提供時のスタッフとのコミュニケーションは客単価や顧客満足度を大きく左右する大事な要素なのですが,食主体店ではコストダウンと感染リスクを避けるということで一気に自動化が進んでいます。また注文や会計を非接触にするシステムを各社導入する動きがみられ,酒屋運営のきちりHDや一家ダイニングプロジェクトが導入予定ということです(日経朝刊:2020/11/7:11P)。
吉野家HDはAI開発企業と連携して店舗データを活用したオペレーション効率化の実験を始めます。店舗データは,レジ前の待機人数,返却口の状況,橋の残量などで,AI分析することで最適状態を算出しオペレーションに活かすもののようです(日経MJ:2020/11/11:15P)。伊勢のおかげ横丁にある「ゑびや」が開発したAIシステム「ゑびらぼ」が中小飲食業向けのBIとして多くのメディアで取り上げられるなど,マネジメントレベルの高度化もこれからの課題となってきそうです。
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