凋落激しい「いきなり!ステーキ」
「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービス社の業績が急速に悪化しています。同社の発表によると,2019年12月期の連結最終損益は25億円の赤字(前期は1億2100万円の赤字)の見込みということで,業績下方修正を嫌忌して株価も大幅に下落しました(日経夕刊:2019/11/18:7P)。
「いきなり!ステーキ」は,2013年12月に銀座に1号店を出店して以来,ステーキ肉をグラム単位でオーダーしてカットするスタイルや,立ち食いの手軽さなどが人気で店舗数を急速に伸ばしてきました。2017年には,業績が低迷していた幸楽苑HDが不振店を「いきなり!ステーキ」に業態変換するために複数店FC契約を結ぶなど,フランチャイズによる店舗拡大が進みました。そして同年8月には同社は東証1部へ上場替えと順調に成長路線を歩んでいたように見えたものの,急速な店舗拡大は自社競合やオペレーションの質低下などを招き,ここ1,2年で急速に収益が悪化していったようです。
また同業態は,2017年2月にステーキの本場である米国市場に参入して一時は11店舗まで店舗を増やし,2019年9月には日本外食企業としては初めて米国ナスダック市場に上場しましたが,米国の消費者のニーズをとらえきれず,2019年6月に上場廃止を決定し事実上の撤退を余儀なくされました。現在,同社の経営環境は限りなく赤信号に近い黄色信号なのではないかと推察されます。
ところで,一時期は「ロードサイドのハイエナ」と言われてTVなどの露出も多かった井戸実氏が代表のエムグラントサービス社が,2019年8月に「ステーキ・ハンバーグ&サラダバーのけん」をジー・テイスト社に事業譲渡していました(エムグラント社HPより)。このニュースはジー・テイスト社にとっては株価影響要因も些少と判断しているのでしょうか,ジー・テイスト社からのニュースリリースもなくHP上にもそのような記載はありませんでした。個人的には,成長戦略の難しさというよりも,栄枯盛衰,諸行無常を感じずにはいられない出来事でした。
そして今から40年ほど前に,左派系ジャーナリストである本田勝一氏の「殺される側の論理」で「定向進化」という言葉を知ったのを思い出しました。これは,恐竜などの古代生物は巨大化という「定向進化」をしたために地球環境の変化に対応できず絶滅した,というものです。
食中毒や刑事事件という経営危機を乗り越えてきたペッパーフード社だけに,なんとかこの経営危機も乗り切ってまた元気な一瀬社長の笑顔を見たいと,応援の気持ちをもって注目しています。
積極化する外食企業のM&A戦略
今月のM&Aで個人的に衝撃だったのは,カフェ・カンパニー社とサブライム社の経営統合です。両社は持株会社を設立し,カフェ・カンパニー社の楠本修二郎氏とサブライム社の花光雅丸氏が共同代表に就くということです(日経MJ:2019/11/1:15P)。コンセプトメーキングに長けアッパーな業態を作りだすカフェ・カンパニー社と,積極的にM&Aをして業容を拡大し業務委託方式ののれん分けでチェーン基盤を固めるサブライム社の,両社の機能がシナジーを生み出し成長を加速させるのではないかと期待しています。
フジオフードシステムは関西基盤のそば店「土山人」7店舗を2億円で買収,今後も積極的にM&Aを推進するために持株会社への移行を検討しています。同社は,2016年に「ザ・どん」と「はらドーナツ」を,2018年にはラーメン店「サバ6製麺所」,そして今年になって沖縄のサムズステーキグループを買収しています。現在,同社は全国で直営・FC合わせて約900店舗を展開していますが,7割強が関東・関西・中京の三大都市圏に集中しており,M&Aによるマルチブランド化で地方での出店を加速したい意向のようです(日経地方版:2019/11/7,2019/11/16,他)。
その他,関西に地盤を持つ和食ファミレスチェーンのSRSホールディングス(旧サトレストランシステムズ)が,2023年売上1000億円を目指し外食ブランドのM&Aの動きを本格化させています(M&Aonline:2019/11/12)。
北関東に地盤を持つ外食チェーンの坂東太郎(茨城県古河市)は,取引のあった老舗菓子チェーンを買収して再生に乗り出しました。同社は群馬や茨城に新業態となる大型飲食店の出店を進めており,ドミナント戦略に基づく経営基盤強化を進めていくようです(日経地方版:2019/11/6,他)。
単一ブランドの定向進化ではなく,M&Aによるマルチブランド化へ
単一ブランドによるチェーン展開は,ブランド価値が維持できている間は効率的に拡大するでしょう。しかしながらどんなブランドでも陳腐化する危険性は払拭できず,一旦負のスパイラルに陥ると簡単にはリカバリーできません。従って,現代のような環境変化の激しい時代だからこそ,マルチブランドによりリスク分散しておく必要があります。そういう意味でも,M&Aは有効な成長戦略のカードだと言えるでしょう。以下に,今年の外食関連の主なM&A案件を記載しましたので,参考になさってください。
2019-11-26
JR九州(9142),海中レストラン経営や「いかしゅうまい」製造の萬坊を買収
2019-11-08
フジオフードシステム(2752),手打蕎麦専門店「土山人」運営の暮布土屋を買収
2019-11-07
チムニー(3178),焼肉店など運営のシーズライフを買収
2019-10-30
ぐるなび(2440),フードデリバリー事業をスターフェスティバル子会社に譲渡
2019-10-07
ブルドックソース(2804),調味料製造業のサンフーズを買収
2019-09-04
幸楽苑HD(7554),「かつや」のアークランドサービスHD(3085)と業務提携
2019-07-02
創業新幹線,グッドヌードルイノベーションを買収
2019-06-12
三菱商事(8058),コメダHD(3543)と資本業務提携
2019-06-03
ユニマットキャラバン,ユニマットプレシャスからレストラン店舗を譲り受け
2019-05-31
海帆(3133),立喰い焼肉「治郎丸」事業を譲受け
2019-05-16
レンブラントHDのATP,オムロン(6645)から,「LaLa御殿場ホテル」を譲受け
2019-03-28
梅の花(7604),海産物居酒屋「さくら水産」運営のテラケンを買収
2019-03-26
日清製粉グループ本社(2002),トオカツフーズを完全子会社化
2019-02-22
シダックス(4837)子会社,ミツウロコプロビジョンズから事業の一部を譲受け
2019-01-23
ミツウロコGHD(8131),グループ会社2社を合併
出所:M&Aキャピタルパートナーズ https://www.ma-cp.com/gyou_c/90.html
(無断掲載,転載を禁じます)