2020年外食チェーン企業トップの群像

年が明け令和2年となり,新聞各紙には外食チェーン企業トップの本年にかける意気込みなど恒例のインタビュー記事が掲載され,また週刊ダイヤモンド(2020/1/11号)は「外食特集」でなかなか読みごたえがありました。それでは各業態の主だったチェーン企業トップの関連記事をピックアップして,業界動向を概観してみたいと思います。

ペッパーフードサービス 一瀬邦夫 社長(肉業態)

大量閉店に見舞われ苦境に立たされているペッパーフード社,一瀬社長は「私の覚悟はできてます,応援してください」との直筆メッセージを店頭に貼り出すなどして,苦境を乗り越えようとしているようです(週刊ダイヤモンド:1/11号)。これまで,いくつかの不祥事を乗り越えてフェニックスのように復活してきた同社ですから,なんとかこの危機も乗り越えられそうな気もします。
そもそも,ペッパーフード社は不振ですが,多くの外食トップは肉ブーム自体まだ続くと見ており,筆者もそのように感じています。ところで一瀬社長は「私が出店に邁進している時に,『社長,その立地はダメですよ』と止めてくれる者がいなかった」と言っていたそうです。基本的には出店数ではなく,利益額や利益率あるいは売上高を目標にするというのが,経営戦略の定石というものでしょう。

ワタミ 渡邉美樹 会長兼CEO(居酒屋)

渡邉美樹会長は,「私はラグビーチームの監督」ということだそうで(週刊ダイヤモンド:/1/11号),この発言を鑑みるに,渡邉会長はキャプテンでもなくコーチでもなく一歩下がったところから見守る監督として振る舞うようです。政界から実業界に復帰し社業の立て直しを図るにあたって,事業承継も見据えてトップダウン型ではない形で改革を進めるのかもしれません。
「居酒屋は縮小する,ワタミは総合フードサービス企業になる」ということで,セブンイレブンを仮想的としてテイクアウト比率6割程度の新業態(鳥メロのブラシュアップ)を開発する,というような考えも示しています(日経MJ:2020/1/27:1P)。60歳の渡邉会長ではありますがあと29年は経営に参画するということなので,今後の居酒屋業態改革を刮目してウォッチしていきたいと思います。

日本KFCHD 近藤正樹 社長(FF)

近藤社長は「2019年は出来過ぎだ」との感想,軽減税率対応やマーケティング施策が奏功したKFCが好調です。クリスマスなどの「ハレ」の日需要が主だった顧客のニーズを,ワンコインランチの導入で日常遣いの業態として訴求できたことも好調の要因と言えるでしょう。今後も引き続きマーケティング施策を強化していくようです(日経MJ:2020/1/15:13P,週刊ダイヤモンド:/1/11号)。
吉野家では外資系企業で活躍したマーケッターを招聘し,「ねぎだく」や「超特盛」など提供メニューを拡張することで顧客セグメントに対応したマーケティングを実施しました(週刊ダイヤモンド:/1/11号)。AIの発展によりOne to Oneマーケティングの可能性が広がっている昨今,FF業界では先行するマクドナルド,KFC,吉野家などに続いて,各社がマーケティングに力を入れてくることになりそうです。

くら寿司 田中邦彦 社長(回転ずし)

田中社長曰く「回転ずし界のユニクロになる」ということですが,その心はSPAのように企画,調達,加工,販売まで一貫して内製化したいという意図でしょうか。くら寿司は2019年8月に米子会社を米ナスダックにIPOして米国における出店を加速,積極的な海外展開方針も好感を持たれ,年明け株価は高値で推移しています。(日経朝刊:2020/1/30:15P,週刊ダイヤモンド:/1/11号)。
米国に目が向くくら寿司とは対照的に,業界トップのスシローはアジア市場を攻めるようです。そもそも破談になったスシローと元気寿司の統合は,アジア展開に強みを持つ元気寿司とのシナジーを狙ったものでした。東京オリンピックを控え,インバウンド需要も回転ずし業界にフォローウィンドとなるものと思われ,各社各様の成長戦略が見られることになりそうです。

ロイヤルHD 黒須康宏 社長(FR)

24時間営業をいち早く廃止したロイヤルHD,黒須社長は現状の店舗規模を維持し拡張路線はとらない方針のようです(週刊ダイヤモンド:/1/11号)。すかいらーくHDも4月までに24時間営業を全廃すると発表(日経朝刊:2020/1/21:15P),外食業界における「働き方改革」は構造的に進んでいくようです。ファミレス業界は無軌道に多店舗化を進めるのではなく,AIのCRMへの技術転用,多様なキャッシュレス化の推進,人材生産性向上のためのITインフラ整備など,次代を見据えた基盤整備に力を入れるようです。ファミレス各社の先端的な取り組みは,外食業界の健全化や環境改善を推進するものと考えられ,そういう意味でも今後の取り組み成果に注目しておきたいと思います。

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